量子コンピュータとは?従来のコンピュータと何が違う?
テック系の情報収集を行っていれば、「量子コンピュータ」と呼ばれるものについての記事を読んだことがある、話に聞いたことがあるという方も多いでしょう。
しかし、量子コンピュータとはそもそも何なのかについては、なかなか量子力学の知見がない人には分かりづらいものです。そして、量子コンピュータが何なのかについてわからなければ、量子コンピュータが従来のコンピュータ、たとえばスパコンなどと比較して何がすごいのかという点もイメージがつきにくいでしょう。
この記事では、量子コンピュータの仕組みや、従来のコンピュータと比較した場合に何が優れているのかについて、できる限りイメージしやすくお伝えします。
イメージとして理解しやすくするため、厳密には議論のあるポイントや、厳密には意味が異なる部分がある点については留意してください。
量子コンピュータは「量子計算」ができるコンピュータ
従来型のコンピュータは、量子コンピュータと比較する際に「古典コンピュータ」などとも呼ばれますが、この記事では「従来型コンピュータ」と呼称します。
従来型のコンピュータは、演算単位として「0」か「1」かのどちらかの状態を持ち、併存することはありません。
この0と1の組み合わせによって状態を表現する、定義するという点に関しては、「2進数」という言葉とともに理解されています。たとえば、以下の表をご覧ください。
10進数 | 2進数 |
0 | 00000000 |
1 | 00000001 |
2 | 00000010 |
10進数が、私たちが普段数を数える際に使うもので、1,2,3,・・・8,9,10と進みます。
一方2進数は、末尾の数字が「0」か「1」しかありません。つまり、1の次は「0」になります。その代わり、位が上がるのです。
この話が量子コンピュータと何の関係があるのかというと、シンプルに言えば、「従来型のコンピュータは、0か1かのどちらかの状態しか持てない」ということを確認するためです。
これに対して量子コンピュータは、「0」か「1」かではなく、「重ね合わせ状態」を持つことができます。これを「量子重ね合わせ状態」と呼びます。つまり、演算単位が「0でもあり、1でもある」ということです。
少しわかりやすい例を出しましょう。
たとえば、複数回のテストの点数を用意し、その平均値を求めるような計算であれば、従来型のコンピュータは一瞬で計算することができます。
もちろん、手計算で平均を求めることは、私たち人間にもできます。
一方で、「確率」や「予測」を求める計算に対しては、非常に複雑な計算が必要になります。それは、従来型のコンピュータが、「すべての計算結果をひとつひとつ計算して、それらの計算結果から回答を出す」ためです。
これは、演算単位が0か1かというどちらかの状態しか取れないという点と関連しています。演算単位が0か1かという計算をするため、全ての入力に対して毎回計算が必要となり、答えを導きます。
これに対して量子コンピュータは、演算単位が「量子ビット(キュービット)」とも呼ばれる「量子重ね合わせ」の状態であるため、一括で複数の入力を行い、それらを「確率的に出力する」ことができるのです。つまり、計算機で計算して「正解」を出すという考え方とは根本から異なるのです。
従来型コンピュータは、大規模な入力から結果を導く計算においては膨大なリソース、特に時間が必要となりましたが、量子コンピュータでは、同時並行的に計算を行うことで、こうした大規模な計算が瞬時に行えるほか、人工知能や機械学習といった、複雑な計算を提供できる可能性があるのです。
こうした量子コンピュータの性質は、創薬や金融といった産業分野に大きなインパクトを与えることが期待されています。
量子コンピュータの課題
このように、大きな期待を持たれている量子コンピュータですが、未だ課題も多くあります。まず、重要な技術課題のひとつとして「極低温環境」の問題があります。たとえば、量子コンピュータの一種である超電導量子コンピュータは、「超伝導現象」を利用しているのですが、この「超伝導現象」を利用するためには、絶対温度零度と呼ばれる「-273℃」が必要です。これを実現するためには、「希釈冷凍機」と呼ばれる、ヘリウム3とヘリウム4の混合物を用いた設備が必要となります。
また、現実の運用面においても、量子コンピュータは「万能ではない」とされています。従来型コンピュータと比較して、量子コンピュータのほうが高速に解けることが数学的に保証されている問題の分野は限られています。
今後の量子コンピュータの展開は未だ未知数です。従来型コンピュータと量子コンピュータが、あたかも現代での電卓とコンピュータのように併存状態として残るのか、それとも量子コンピュータが、やがて従来型コンピュータの機能もカバーするようになるのでしょうか。
今後の新たな研究や論文に注目していきたいところです。